新しい結晶法と具体的テーマ

過冷却度の操作→核形成と結晶成長の駆動力を操作

 Y-Ba-Cu-O系超伝導酸化物(YBCO)は、臨界温度が窒素の沸点以上であり、臨界電流密度(Jc)が 大きく、磁界によるJc値の低下の程度も小さいため、変圧器のコイルや、電子デバイス等への応用 が期待されている。材料特性を決定する要因として凝固組織が挙げられる。Y123(YBa2Cu3O7-x)相 の凝固組織は凝固条件に依存し、特にY123相の成長ダイナミックスに依存することが知られている。

 本研究では、電場印加とその場観察付のDTA(示差熱分析)装置を開発し、YBCOの包晶点 (peritectic temperature)、共晶点(eutectic temperature)などを測定した。電場印加がYBCOの融解 プロセスおよび成長プロセスに与える影響を調べた。さらに、外部電場を印加したYBCO超伝導体酸化物の成長 ダイナミックスにつき、外部電場がY123相の成長速度へ及ぼす影響を調べ、電場印加によりY123 結晶相の成長速度が抑制されたことを明らかにした。Y211と融液の包晶反応によりY123が成長す る場合、外部電場印加の有無によって、同じ温度、または同じ過冷却度で成長速度がかなりの差 が生じているが、どの場合でも成長速度がほぼ同じ比例係数で過冷却度に線形的に比例すること が分かった。これは、電場印加は、成長カイネティク係数に影響せずに、核発生のために 必要なエネルギーの増大に効果を示すことを示唆している。



MgO (001)基板上にYBCOペーストを薄く塗り、融解-凝固過程をその場観察する。試料に対し、水平方向の電場が 印加できる。炉内の水平方向の温度勾配を0.5℃/cm以内に抑えている。反応温度の誤差は、Auの融点により キャリブレーションを行い、昇温速度の影響を考慮し、1℃以内に抑えている。


上記の電場印加機構付きその場観察装置の「試料融解・凝固ステージ」を「示差熱分析用ステージ」に置き換え、 電場印加のもとで、試料をその場観察しながら、示差熱分析が出来る。温度差の小さい隣接反応を高い精度で 分離した信号を得ることができるのでYBCOの包晶反応の解明に力を発揮する。


ある過冷却(YBCOの包晶点からの温度差)を与えたとき、600V/cmの電場を印加すると、電場印加を行わない 場合に比べ、成長速度は、約1/2になることが観察される。


自作の精密示差熱分析装置による測定からYBCOの包晶点をTp = 1022℃とする。過冷却度、ΔT = Tp-Tとし、 ΔTと[010]方向の成長速度の関係を見たのが、上図である。電場(600V/cm)の有無により、傾き、すなわち、 キネティックス係数は変わらないことがわかる。YBCOの[010]方向成長は、layer-motion limitedのモードを とると考えられるので、そのキネティックス係数を求めると、両者とも、K’0.09の値を持つ(下図)。 一方、V = 0における、ΔTは、核形成に必要な過冷却と考えられ、600V/cmの電場を印加すると、この値は、 1℃から8℃に増加する。これは、電場印加による静電エネルギーが付加され、核形成に必要な自由エネルギーが 増大したことを意味する。